映画『ジャンゴ 繋がれざる者』
先月から今月にかけて、年度末で雑用が重なった上、
確定申告という一大ミッションに追われて死ぬかと思った、
映画担当の鈴木です。
(↑毎年のことですが自分が悪い)
ちょうどその頃、某副編集長氏からすれ違いざまに、
「観た?観ました?ジャンゴ!」と聞かれました。
「……それが不覚にもまだ観れてないんですよ…(涙)」と、
暗~い声で言ったのに、
「いや~、あれね、すごいッス!もう、すごかったッス!!
久しぶりにタランティーノ作品で泣きましたよ~もー……」と熱く力説。
そういえば、ちょうど、その1週間前にも、
「ジャンゴ、観た?」、「ジャンゴ、スゴくない?」っていう興奮メールが、
友人・知人から次々と届いていて、そのたびに、
「わかるよ、タランティーノ最新作、わかっていますよ、
でも、今、全然時間ないし!!!」と雑用の山を恨めしく思っていた私。
という訳で、もろもろ一段落したと同時に、
観た人の大半がやられている“ジャンゴ熱”の威力を確かめるべく、
シネコンに駆け込んだのでした。
観て、納得。
上映時間2時45分を感じさせないおもしろさ。
……と言うのを憚られるほど、
血しぶき度90%、人種差別用語99%で、
おもわず目をそむけてしまったシーンも多々ありますが、
それでもなお爽快かつ痛快におもしろい作品になっているのが、
すごいなぁ、タランティーノって……。
そうそう、ラストに残るものは、『爽快さ』なんです!
物語は、南北戦争が始まる2年前のアメリカ南部。
黒人奴隷のジャンゴ(ジェイミー・フォックス)が、
ひょんなきっかけで、ドイツ人のキング・シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)の
手によって解放される。キングは、“国のお尋ね者”を取り押さえて賞金を得るため、
ジャンゴは生き別れした妻を探すため、2人はコンビになって旅を続ける。
そして彼らは農園の領主カルヴィン・キャンディ(レオナルド・ディカプリオ)のもとに
妻がいることを突き止め、救出のため、ある計画を企てる。
映画マニアなタランティーノ監督だけに、
マカロニウエスタンの名シーンや音楽でのオマージュや遊びが盛りだくさん。
でも、西部劇は観たことがない人でも、
しっかり楽しめるエンタメ度の高さなので、
映画史を塗り替えた云々という能書きは知らなくても大丈夫。
(でも、アメリカ南北戦争と奴隷制度の歴史だけは知っておくべし)
さっそく編集部に帰って、
副編集長と編集部員M氏と“ジャンゴ井戸端会議”をしていたら、
男子はみんな、ジェイミー・フォックスのたたずまいと
ガンバレル、そして着こなしにやられていたということがわかりました。
(照英に似てるな~と思ったのは私だけだった…)
そして、サミュエル・L・ジャクソンとディカプリオの怪演かつ好演ぶり!
ディカプリオの悪役ぶりとキレぶりは半端ないし
(もはやゲイリー・オールドマンの域)
サミュエルは、老け顔メイクもしていることもありますが、
「スネ夫をさらにねちっこく邪悪にして
おじいちゃんにしたらこんな風だろう」と思われる奴隷頭を熱演していて、別人のよう。
結構びっくりしました。
物語設定や、残忍残虐シーンが史実にもとづいているため
かなりやり切れなくなるけど、
全編に渡ってブラックユーモアが効いていて、話はテンポよく進んで行きます。
途中KKK似な集団のとぼけたシーンとか、
シュルツの洗練されたユーモアと台詞まわしも胸熱。
ストイックに復讐に燃えるジャンゴとのバランスがいいコンビなんです。
2人が荒野を行くシーンで流れる
ジム・クロウチの『I got a name』は、
歌詞がしみじみ染み入ってきて、思わず涙しました。
そう、音楽で感極まるシーンが多くて
やっぱりタランティーノ監督は音楽の使い方が上手いなあと……。
ヒップホップ好きなら、本作でまさかの2パック×ジェームズ・ブラウンが返り咲いた
銃撃シーンは相当ぐっとくるはず!
映画館を出た後、速攻でサントラ探しましたからね。
(売り切れで残念)
ジャンゴ繋がれざる者~オリジナル・サウンドトラック
発売中 2548円 ユニバーサル インターナショナル
この作品がとても革新的なのは、
南北戦争前の黒人奴隷の扱いを、これまでになくつまびらかに描いたこと。
もちろん現状はもっと酷かったのだと想像しますが、
監督が全責任を負って、
映画という媒体で描ける範囲のギリギリまで迫り、
かつエンターテインメントに仕上げた作品は
これがはじめてだったということです。
アメリカでは特に、人種差別問題は、今でも過去になっていない“負の歴史”。
ジャンゴ公開時には、スパイク・リー監督が
「俺はこの映画は観ない」とコメントしてケチをつけた格好になりましたが、
それくらい、日本人の私たちが想像する以上に、
かなりセンシティブな問題なんですよね。
でも今回のタランティーノの仕事にしびれてしまうのは、
マカロニウエスタンに最大限の賛辞と敬意を示すその一方で、
黒人のガンマンを主人公にしたことで、
これまで“ヒーロー=白人”だった西部劇や
ハリウッド映画の悪しき慣習を辛辣批判していること。
まさに、毒をもって毒を制す!
……ということで、一番のヒーローは、タランティーノ監督じゃないかなぁ。
ラストでは、監督も出演して、ちゃんと自分を“自滅”させているし。
(演技が下手っぴなのは、ご愛嬌!)
そうそう、その圧巻のラストでは、
編集部員M氏曰く、漫画『ヴィンランド・サガ』のあるシーンを思い出したとのことです。
という訳で、ジャンゴ話はつきません……。
ぜひ『ジャンゴ』を観てから来月公開の『リンカーン』を観に行ってみてください。
映画『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012)
丸の内ピカデリー他、全国公開中
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
http://www.sonypictures.jp/movies/djangounchained/