大人の男性にこそ響く、ジブリ新作映画『風立ちぬ』
映画担当の鈴木です。
みなさん夏バテしてませんか。
今日は、映画業界で、この夏一番の話題、
ジブリ最新作『風立ちぬ』についてです。
何がそんなに話題なのかというと……
宮崎駿監督が約5年かけた渾身の新作!
ジブリ作品としては、初のキスシーン&恋愛描写も!!
戦闘機や乗り物の効果音を人間の声で作ったという斬新すぎる試み!
……と話題性がてんこもりなのです。
そして、
「エヴァの庵野監督が、主演に抜擢、声優として参加してる!!」という話題も。
「どんな作品なんだろう?」と期待と不安半分ずつだったのですが、
行ってきました! 完成披露記者会見&試写会。
今回、恋愛ドラマも正面から描いているということもあって
観る前は、「女性向けかな?」と思ったのですが、
観た後は、「これは“大人の男性”にこそ、身にしみるんだろうなぁ」としみじみ思いました。
もちろん、お子さんが見ても楽しめる作りで、ファミリーで楽しめる作品に仕上がっているのが、
さすがジブリ映画だなと思うところ。
でもきっと『精神年齢がR18』以上の男性にこそ、
もっとも身にしみる作品だと思います。
主人公は、ゼロ戦設計者として世界的に知られる堀越二郎と、同時代に生きた文学者・堀辰雄という実在した2人の男性をモデルに生まれた、青年技師・二郎。舞台は、関東大地震、貧困と不景気、そして戦争へと向かっていく1920年~1940代、激動の日本。その時代を、一人の青年がいかに生きぬいたのか。
そして薄幸の少女・菜穂子との恋愛ドラマを描いた感動作です。
もともと、宮崎監督が模型雑誌「月刊モデルグラフィックス」で連載していた漫画が原作だとか。
鈴木敏夫プロデューサーが「これを次回作にしませんか」と宮崎監督に提案したのがきっかけだったようでしたが、はじめは無下に却下されたとか(!)。
宮崎監督は、アニメーション作品は、基本的に、子供に寄り添った作品づくりをすべきという信念があったからそうです。
そんな宮崎監督を、鈴木さんは「戦闘機は大好きだけど、戦争は大嫌いな矛盾の人」と形容しています。
(そこに目を付けて、作品を作らせちゃうって、さすが敏腕プロデューサー!)
しかも、映画制作がスタートして、ユーミンの『ひこうき雲』を改めて聴き直した鈴木さんと宮崎監督が、あまりにぴったりとその世界観が重なるのに共感して、「ぜひ主題歌に」と即決。
その後、鈴木さんは、ユーミンとの別のイベントで同席した際に、
そこで“公開オファー”をして、既成事実を取り付けてしまったのだとか。
そのユーミン様をもって、記者会見で「すごく嬉しくて鳥肌が立ちました。この時のために作ったのかなって。公開オファーは、(プロデューサーとして)さすがだなと思いましたね(笑)」と言わしめたほど。
▲「ラストで嗚咽しました」とユーミン様。
完全披露記者会見は、先月末、ジブリのオフィスで行われました。
登壇者は、宮崎監督、ユーミン様、そして庵野監督。
ひょうひょうとした庵野監督と宮崎監督のかけあいがおかしくて、1時間半、あっという間でした。
じーんとしたのは、2人の程よい距離感ある師弟関係が垣間見れたこと。
もともと宮崎監督の『風の谷のナウシカ』(84)で、巨神兵の原画を担当していた庵野監督。
「宮さんには、いろいろと教えていただいた。それが僕にとっての全てです。 絵コンテの描き方とか、わざわざ呼びつけて、教えてくれるんですよ。普通はあまりそんなことはしないので嬉しかった。超える超えないとかは別として、アニメーションは、映画とは、こういうふうに作るんだという見本を示してくれた人。師匠だと思っています」ときっぱり。
▲個性的な声で主人公を演じた庵野秀明監督
それに対して宮崎監督は、
主演を庵野監督に起用した理由を尋ねられると、
「現代で一番傷つきながら生きてる男だからね。主演を庵野にやってもらって、本当によかった」と庵野監督の真正直な生き方が決め手になったことを説明し、感謝の意を示していました。
▲御年72才だが、まだまだ現役の宮崎駿監督
そのやりとりに「いいなあ」と胸打たれました。
昔と違って今は、技術の伝承や、人を育てることが希薄になった時代だと思うのです。
雇用形態も変わったし、企業の中でじっくりと人を育てることが少なくなり、お互い尊敬しつつも、共に遠くを見て、大きなものを目指せる師弟関係って、なんてステキで貴重なんだ、と。
劇中でも、主人公の二郎が憧れた人物、イタリアの設計士カプロー二氏との時空を越えた友情関係が描かれますが、なんだか、宮崎監督と庵野監督の関係にも重なって見えてくるかのようでした。
▲イタリアの設計士カプロー二氏
映画は、困難な時代を生き抜くこと、それでも夢と目標に没頭すること、愛する人と支え合うこと……などいくつかの大きなテーマが描かれていますが、私がもっとも胸を打たれたのは、宮崎監督のこうした次世代へのメッセージでした。
宮崎監督は、こう話していました。
「人の創作的期間は約10年しかないと思っています。
その時に没頭して、一生懸命生きるしかない。
簡単には言いたくないが、“力を尽くして生きよ”ということです。」
「映画の中で、そこに生きる人たちの時間は、非常に切迫しています。これからますます、そういう時代になると思います。」
映画『風立ちぬ』は、そうした宮崎監督の想いが詰まっている作品です。
本編に関しては、とにかく劇場で観てほしい!の一言に尽きます。
私は、記者会見の後、あの4分間の予告を観た時に
不覚にも嗚咽するくらい号泣して、
めちゃくちゃ恥ずかしい思いをしたということもあり、
あまり冷静に語れないのですが……(編集者失格)
一人でも多くの人に観てほしいなあと思います。
そして、白眉は、ジブリ作品初のキスシーン!
二郎と菜穂子の恋愛描写は、
あまりの瑞々しさと初々しさに、悶絶&卒倒しますよ!!
心が渇いてる大人ほど、その破壊力は高いでしょう(笑)
庵野監督じゃないけど「72歳で、こんな作品を作れるなんて
(宮崎監督は)やっぱりすごい!と感動しました」。
8月25日発売号『デジモノステーション vol.138』では、
特集ページを掲載予定です。
映画評論家の賀来タクトさんのレビューとともに、
“映画『風立ちぬ』がもっとわかる、本&CDガイド”付き!
ぜひぜひ、読んでから劇場に行ってみてくださいね。
映画『風立ちぬ』(2013年/日本/126分)
7月20日より、全国ロードショー
配給=東宝
監督・脚本・原作:宮崎駿
音楽 久石譲
主題歌 「ひこうき雲」荒井由美 (EMI Records Japan)
声 庵野秀明、滝本美織 ほか
http://kazetachinu.jp/
2013 二馬力 GNDHDDTK